桜の自覚 東文 様 |
『いいかげんに、なんとかしろ』 と、溜め息混じりにアニキに言われ、俺は反論することもままならないまま、今日、部屋の片付けを始めた。 確かに足の踏み場もないけどさぁ〜。この方がぜってぇ落ち着くのにさっ。 『俺がコーヒー作ってやっても、この部屋じゃ、一生飲めないだろ?』 なんて言ってさぁ〜。 『でも平たい所もあんじゃん?』 なんて言い返したりしたら、 『そんなせまい所じゃ、お前と……出来ない、だろ?』 って、すっげぇやらしい笑み浮かべやがって…。 全く、何考えんだか。信じらんねぇよなっ。 ブツブツと。アニキへの不平不満を並べ立てていると、俺の背中の方からゴトッ!と音がした。 ??何の音だ??? 嫌な予感がして、俺はそっ……と後ろを振り返った。途端、 「でぇええーーーっ?!」 バサバサバサバサーーーーーー!!!! すごい音をたてながら、壁に寄り掛かるように積まれていた雑誌やらが勢いよく俺に向かって降り掛かってきた。 「いってぇ……。ん?」 本にぶつかられて痛む身体を摩りながら、俺は落ちて来た残骸に目をやった。 そこでふと、ある一冊の本に目が止まる。 「これって…」 アルバムじゃんか……。へぇ〜。なつかしー♪ わくわくする気持ちのままに掃除のことなどすっかり忘れて、俺はページをめくっていった。 幼い擦り傷だらけの自分と、幼いけど、この頃からどこか理知的な兄。 アニキってば、今もいい男だけど…。 この頃はすっげぇ美少年ってヤツだったんだ……。 妙な感心をしながら、くすくすと笑っていると、ドアをコンコンッと叩く音が聞こえた。 「啓介。掃除は進んでるか……?……何を見てるんだ?」 両手にカップを持って入ってきたアニキの表情が、苦いものから不思議そうなものに変わる。 どんな表情してても、アニキってば格好良いよなーーーv 「アルバムが出てきたんで、ちょっと見てた。あ、アニキも見ろよっ。すっげぇ美少年じゃん♪」 朝から片づけをしていたお陰で、それなりに片付いていた床の上。 そこに座り込んでいた俺の横に、微かに溜め息を吐きつつアニキも座る。 「俺は美少年なんかじゃねぇよ。お前の方が可愛かったぞ」 ほらっ。とアニキは幼い俺を指差す。 「アニキのは、兄の欲目。------あ。これ、中学ん時の入学式だ」 舞い散る桜の花びらをバックに、俺とアニキは並んで笑っている。 ……。なんだか妙に感慨深いな…。なんでだろ。 --------------あっ! しばし黙っていた俺が、いきなり『ぽんっ』と手を叩いたことに、横のアニキは何事かと驚いていた。 あはははは。驚かしちまったみたいだ。ごめんな、アニキ。 訝し気な表情で俺を見るアニキに、俺は理由を説明してやった。 「この写真がさ、妙に感慨深くって、なんでだろ…って考えてたんだ」 「あぁ、なるほど。それの答えが出たんだな」 「うん。そういやこの日って、俺の『初恋記念日』なんだよなっ♪」 ゴトッ。アニキの手からカップが転がり落ちる。 何やってんだよ、アニキ!!人がせっかく綺麗にしたのにっ。 ……あ、中身はもう入ってなかったんだな。よかった〜〜v 「啓介!」 急に真面目な顔になって、アニキは力一杯、俺の両肩を掴んで、 「『初恋記念日』って、どういうことなんだ?」 「どういうことって…。そのまんまの意味だぜ?」 何、慌ててるんだよ、アニキ。 「……実はこの日にさ、すっげぇいい男に出会ったんだよ」 俺は鮮明に思い出すように、ゆっくりとアニキに思い出を語った。 桜が舞い散る4月上旬。俺の入学式。 やっとアニキと同じ学校に通える事に、俺は有頂天になっていた。 その日、アニキは入学式の準備があるとかで、俺とお袋よりも先に学校へ行っていた。 中学校とは言ってもそこは小学校からの持ち上がり組が多くって、クラスの3分の1は見知った奴らだったので、俺はいつものように教室で過ごしていた。 入学式もつつがなく終わり、お袋は「仕事があるのよっ、ごめんね、啓ちゃんっ」と慌ただしく病院へと戻って行った。 そして俺は、校庭の桜の下という、事前に打ち合わせていた場所でアニキをひたすら待っていた。 どこにいても、アニキは忙しい人だった。 確か小学生の時も、委員長とか色々やってるアニキをこうやって一人で待ってたんだよなぁ。 しみじみと、思い出して。一人ウンウンと頷いてみる。 「でもアニキってば、遅ぇよな……。うわっ」 バサァっ……と葉の擦れる音とともに舞い踊る桜の花びら。 幻想的なその風景が目の前に広がった。 「……すげぇ。キレーだなぁ……」 「---------啓介!!」 ふいに、自分を呼ぶ声。 花びらからそこへ視線を移動させると、すっげぇいい男がこっちに向かって走って来ていた。 ………。綺麗、だなぁ…。 目の前で荒い息を整えようとしているアニキを見て、俺は素直にそう思った。 急いで来たのだろう、少し乱れた髪と、軽く弾んだ吐息。 意志の強そうな目に、すっととおった鼻筋。そして、薄い唇。 いつの間にか、大人になりかけているような、アンバランスな身体。 それを引き立てるように身に着けているガクランの第一ボタンを外して、アニキは一度、深い吐息を吐いた。 「待たせたな」 ふわり……と、向けられた笑み。 それに俺の心臓は、一気に心拍数を上昇させた。 身体が熱くなって、顔が赤くなってきたような気がするっ!! 「どうした、啓介?」 俯いた俺の顔を、アニキは訝し気に覗き込んできた。 それに素早く背を向ける。 うわぁぁ、うわーーーっ、どうしようっ!!! 今頃、気付くなんてっ。なんでこんな、鈍いんだよ、俺!!! あまりの自分の間抜けさに、俺はズルズルと座り込んだ。 ………俺、アニキに惚れちまってるみたいだ……。 「---で、自覚したのが、入学式の時だったんだよ」 苦笑いを浮かべながら、俺はアニキに言った。 それを始終、聞いたアニキの顔は、最初の頃に比べ、すっかりニヤけていた。 ……そんな顔してても格好良いなんて、すげぇズルいぜ、アニキィ。 「だから、この日は、俺の『初恋記念日』」 じっと上目使いに言った途端、唇に軽くキスされる。 「……じゃあ、俺の初恋記念日は、お前の誕生日だな」 ふっ、と微笑まれる。 俺の誕生日って……、いつのだろう? 「お前が生まれて、初めてお前を見た時から。俺はお前の事が好きだったんだぜ?」 生まれて初めてってことは……、赤ちゃんの時からかぁ〜?? 「-------アニキって…」 「なんだ?」 「ショタコンだったのか?」 この言葉を聞いて、アニキの動きがピタリと止まった。 一瞬苦い顔をして、でもすぐに俺の意図に気付いたアニキはすぐにそれを余裕の表情に変えた。 そして、自信満々に、こう言い放ってくれた。 「俺は、初めから、お前しか見えてなかったんだよ。啓介-------」 そうして、もう一度唇を奪われた。 部屋の外では、名残り惜しそうに桜が舞っている。 そういや今日は、入学式があるって近所の奥さんが言ってたっけ------------。 |
東文様 ありがとうございます(^^) 図々しくも「何か書いてください」の私に、快くプレゼントしてくださった東文様・…ねだって良かった…啓介、かわいい(>_<) 「記念日」ということでおねだりしたのですが…とっても素敵な記念日に仕上がっていて、感動! またなにかありましたら、お恵みくださいね。(逃げないでください…/汗) by.葉月 素敵なお話ありがとうございますm(._.)m 啓介がとっても可愛くて思わずにやけてしまいました(笑)涼介もイイ(うっとり)すっごく啓介のことが好きなんだなぁ…ってカンジです!し、幸せ(感涙) ぜひまた素敵なお話読ませて下さいvvv本当にありがとうございました! by.みこと |