嫉妬とワガママ
南 様
 「そろそろ帰らないのか?」
 床に寝そべって雑誌を見ていたオレは、その声にビクッとした。
 内心の動揺を悟られないようになんでもないフリを装って答えた。
 「別にイイじゃん。それとも史浩はオレがジャマなワケ?」
 「イヤ、俺はいいが今日は涼介もかえってくるんだろう?」
 だから帰りたくないのだとは、とてもじゃないが言えない。
 でも史浩のことだから何かあったとは思っているだろう。
 答えないオレに史浩は溜息をついた。
 「まったく・・・ケンカでもしたのか?」
 「ケンカじゃねェよ」
 そう、ケンカなんかしていない。
 第一、オレとアニキじゃケンカにもならない。
 小さな頃からいつだって、ワガママを言うのはオレで、アニキは笑って言うことをきいてくれた。
 今回の事だってオレのワガママだ。


 事の発端はアニキにかかってきた電話だ。
 珍しくその日はアニキも家にいて、2人でのんびりと休みを楽しんでいた。
 午後からはアニキの車でドライブにでも行こうかという話になっていたときに、
 アニキのケイタイが鳴った。
 『はい・・・』
 『あ、あの藤原です』
 『ああ、どうした?』
 『すいません、ちょっと教えてもらいたいことがあるんですけど・・・』
 『今か?』
 『え、あ、ハイ。できれば』
 『わかった。じゃあ、いつものファミレスで。』
  
 「アニキ、どこ行く?」
 答えはわかっていた。
 それでも聞かずにはいられなかった。
 もしかしたら今からでも断ってくれるかもしれない・・・とどこかで期待していたのも事実だ。
 「悪いな、啓介。藤原と会わなくちゃならない」
 「何で?!だってアニキ言ったじゃん。今日は1日中一緒にいてくれるって」
 「仕方ないだろう。Dのこともあるし藤原を無視するわけにはいかない」
 「・・・・・・った。」
 「啓介?」
 「わかった。ワガママ言ってゴメン・・・」
 「いや・・・」
 意外とあっさりひいたオレを何か言いたそうな目で見ていたが、
 悪かったな、と言って、オレに唇に触れるだけのキスをして出ていった。
 オレにだってわかっている。
 アニキが大変だという事ぐらい・・・
 実習だって始まってるし、Dの事だってある。
 頭ではわかっていても、気持ちまでがついてくるわけじゃない。
 誰もいない部屋にいることがいたたまれなくて、オレは家を飛び出した。
 それからは、何だかんだと理由をつけてアニキを避けまくった。
 もともと都合を合わせようと思ってもなかなか合わないオレ達だったから、避けるのは簡単だった。


「・・・・、・・・介、啓介!聞いてるのか?」
  史浩の声に我に返った。
 「あぁ、ゴメン。何?」
 史浩は呆れた様子を隠しもせず言う。
 「何があったのかは知らないが、いくら涼介でも心配するぞ」
 「するわけないじゃん。忙しくてそんな余裕なんかねェよ」
 「啓介・・・、お前だってわかってるだろう」
 暗に諭されて、オレは押し黙った。
 「ごめん、頭冷やしてくる」
 そう言ってオレはタバコを手に立ちあがった。
 

 外に出て、タバコを燻らせながら考えてみる。
 オレは、アニキを避けてどうしたかったのだろう。
 本気で藤原にアニキを獲られるなんて思ってたわけじゃないのに・・・。
 アニキを困らせたかったわけじゃない。
 結局、オレは自分で何がしたいかも分からないガキなんじゃねェかよ、と自嘲の笑みをこぼした時だった。
 聞き覚えのあるエンジンの音が聞こえてきた。
 絶対に間違えるはずのない・・・・・・アニキのFCの音。
 どうしようと考える間もなく、目の前に車が止まり、アニキが降り立った。
 「どう・・・して・・・」
 それだけをどうにかして絞り出す。
 「オレが呼んだんだ」
 後ろに来ていた史浩が答えた。
 「いつまでも逃げ回っているわけにもいかないだろう?」
 ほら、という声とともに背中を押される。
 「迷惑かけたな、史浩」
 アニキがオレを助手席に乗せながら文浩に言う。
 「いや、じゃあ」
 「ああ」
 

 FCが走り出してしばらくした頃、アニキが口を開いた。
 「悪かったな、この前は」
 「どうしてアニキが謝るんだよ!悪いのはオレじゃねえか・・・」
 謝られたくなんかなかった。
 わがまま言ったのはオレなのに・・・・・・・
 「啓介?」
 「だって、そうじゃねえか。アニキが忙しいことくらいオレにだって分かってたのに。駄々こねて、アニキ困らせて・・・」
 言っているうちに、あまりの自分の情けなさに涙が出てくる。
 アニキは適当な場所に車を止めると、オレを抱き寄せた。
 あやすようにアニキの手がオレの背をなでてくれる。
 どのくらいそうしていただろうか、アニキが手を止めないで言う。
 「落ち着いたか?」
 オレはそれに頷きで返した。
 「啓介、お前は自分だけがワガママみたいに言うが、俺だってそうなんだぜ?」
 「え?」
 「できれば誰にもお前を見せたくないし、当然渡したくもない。誰だって好きな人には自分だけを見ていて欲しいだろう。」
 でも・・・負担になりたいわけじゃない。
 そんなオレの気持ちを読み取ってアニキは言葉を続ける。
 「俺は嬉しいぜ?お前にそこまで嫉妬させることができて。つまりそれだけ俺のことが好きって事だろう。違うか?」
 「本当にイイのか。それ以上言ったらまたツケあがるぜ、オレ」
 「フ、お前がつけあがったとこなんて見た事ないがな」
 「アニキ・・・、ごめん」
 「今度からは行き先ぐらい言っておけ。心配するだろう?」
 「分かった」
 それはよかった、と言ってアニキは車を発進させた。
  

 夜はまだ始まったばかりだ・・・・・・


  
 
 

 end 


お忙しい時期に素敵な小説ありがとうございました。
啓介かわいいし、アニキかっこいいし…嬉しいです。 「嫉妬」って素直な感情ですよね(^^) 好きだから「嫉妬」するんだもん。 “嫉妬されて嬉しい”アニキ、とっても好き♪
南さん、ありがとうございました。  by.葉月

啓介ってば可愛い!!あまりの愛らしさにクラクラしてしまいましたvvvそして、アニキもいい感じvvvラブラブな高橋兄弟を堪能できてとても幸せです(^-^)史浩もイイです〜!
可愛いお話ありがとうございましたm(._.)m  by.みこと

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